最高裁判所第三小法廷 昭和37(オ)239 判決
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告代理人甲元恒也の上告理由第一点および第二点について。
上告人が、原審において、被上告人(被控訴人)において本件建物に対する上告
人(控訴人)の占有を奪い自ら「D」の湯屋営業をしたのは本件売買契約における
右建物の引渡債務の不履行にあたる旨主張したのに対し、原判決は、被上告人は昭
和二七年一月五日訴外Eに対し本件建物を引き渡し爾来同人において「D」の湯屋
営業をしていたこと、しかるに、被上告人は同年三月七日午前一〇時頃右訴外人の
本件建物に対する占有を奪つて同人の湯屋営業を中止させ、その後自ら「D」の商
号のもとで湯屋営業をしていること、を確定したうえ、被上告人は既に本件建物を
Eに引き渡し同人をして「D」の湯屋営業をなさしめるとの本件売買契約上の債務
を履行し終つているものであるから、上告人がEから右契約上の債権債務を承継し
た後同人をして「D」の湯屋営業をなさしめていたとしても、被上告人の右所為を
もつて上告人主張の如き債務不履行があるとはいえず、仮に被上告人の右所為が右
債務不履行にあたるとしても、原判示の事情のもとでは、被上告人が右債務の履行
をしなかつたことにつき正当な理由があるから、上告人は被上告人の右債務不履行
の責を問いえないものである旨説示している。
売買契約に基づく当事者双方の債務の履行が完了した後に、売主が実力を行使し
て売渡物件を取り戻した場合には、原則として占有侵奪の問題を生ずるにとどまり、
債務不履行の問題を生じない。しかし、売買契約に基づく当事者双方の債務の履行
が完了しない間に、売主が実力を行使して売渡物件を取り戻した場合には、特段の
事情の認められないかぎり、引渡債務の履行の効果は消滅し、右債務は未だ履行さ
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れない状態に復したものと解するのを相当とする(昭和三三年(オ)第五八一号同
三五年七月一日第二小法廷判決、民集一四巻九号一六四一頁参照)。
本件において、被上告人は、一たん訴外Eに対し本件建物を引き渡した後、本件
売買契約に基づく当事者双方の債務の履行が完了しない間に、実力を行使して右訴
外人の本件建物に対する占有を侵奪したというのであるから、被上告人は未だ本件
建物の引渡債務を履行しない状態に復したものというべく、これと見解を異にする
原判決は所論のとおり法令違背ないし理由そごのそしりを免れない。しかしながら、
原審の認定した事情のもとでは、被上告人において右債務を履行しないことにつき
正当の理由があるから上告人においてその責を問いえないとした原判決の判断は、
これに対応する原判決挙示の証拠関係に照らし正当として是認することができる。
従つて、所論の点に関する原審の判断は結局正当であることに帰し、論旨は採用す
ることができない。
同第三点について。
論旨は、要するに、被上告人が本件建物を訴外Eから取り戻した行為が、本件売
買契約上の債務不履行にあたるとしても、被上告人が債務の履行をしなかつたこと
につき正当な理由があるとした原判決は、審理不尽ないし理由不備の違法がある、
というのである。
しかし、原審の認定した原判示の事情のもとでは、原審のなした右判断は正当と
して是認することができることは前述のとおりである。
所論は、原審の認定しない事実あるいはその認定に反する事実を主張して、独自
の見解に基づき原判決を非難するものであつて、採るをえない。
同第四点について。
論旨は、要するに、原判決は被上告人の主張に基づかずして事実を認定した違法
がある、というのであるが、原審における被上告人の主張には、被上告人が前記の
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ように「D」の営業権を回復した行為について被上告人に所論の債務不履行の責は
ない旨の主張が含まれていると解されるから、原審の所論の点の判断には上告人主
張の違法はない。従つて論旨は理由がない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 五 鬼 上 堅 磐
裁判官 横 田 正 俊
裁判官 柏 原 語 六
裁判官 田 中 二 郎
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